イベント開催報告

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企画展「中也の父・謙助」

 天才といわれる息子を持った父はどういう気持ちなのでしょうか。
 または、道楽息子を持った父はどういう気持ちなのでしょうか。
 中原中也の父は、中也の詩が評価されるまえに亡くなっていますので天才の父という気持ちを味わうことなく、やくざな(当時文学を志す者はそうみられていました)息子を持った気持ちをかみしめていたとおもいます。
 亡くなる直前、中也の詩を病床で読んで涙を流したといいますが、詩に感動したのか、残念な涙なのか、不明です。
 父には、父の人生があります。新国家樹立間もない明治の青年として風雲の志をもって医学を勉強し、森鴎外に憧れておそらくそういう存在になりたいと励んだものの町医者に落ち着き、六人の子どもを育て、七卿碑の建立を果たした後、亡くなりました。
 その人生は、世間一般の父親として、山口市の開業医の先輩として、また、市民のまちづくり活動の先達として、ふりかえるべきものがあるとおもいます。
 中原中也記念館で、企画展「中也の父・謙助」が始まっています。ぜひ会場に足を運んでみてください。

 謙助は明治9年に、現在の宇部市厚東の農家に生れました。
 小学校卒業後上京して医者の書生となり、明治29年弱冠二十歳(その年の最年少。すごく優秀です)で医師免許を取り、明治31年陸軍軍医学校を卒業し、軍医の道を歩みました。

 陸軍軍医学校の校長は森鴎外でした。「小倉時代」の直前で、すでに翻訳家・評論家としての名声がありました。謙助は森鴎外を終生尊敬していました。その森鴎外の本等も展示されています。
 未発見ですが、謙助にも小説を書いて発表したことがあるそうです。文学に造詣があったからこそ中也の志を否定的に受け止めたのかもしれません。

 こちらは陸軍の軍帽や写真帖です。陸軍軍医の史料として貴重とおもいます。
 軍医となって以来、福知山・東京・台湾・朝鮮・旅順・山口・広島・金沢など各地を転々と転任しました。
 大正2年に山口の陸軍42連隊附兼山口衛戍病院長となりました。

 こちらは山口歩兵42連隊の写真です。こういう建物が、現在の陸上自衛隊山口駐屯地にかつて建っていたのです。

 謙助は明治33年に湯田の開業医中原政熊の娘と結婚しました。長男中原中也が生れたのは明治40年。ともに赴任地を転々としました。赴任地の、中国・柳樹屯や広島、金沢、山口での家族写真が展示されています。

 中也は1歳のときに父の赴任地である柳樹屯でわずかな期間、暮らしました。地図は旅順の地図で、4番が柳樹屯です。あそこにいたんですねえ。3番が旅順で、2番が大連です。中也は中国大陸へ赴く船旅の記憶があるといっています。

 謙助は大正6年辞職し、中原医院を継ぎ、開業医となりました。元来外科が専門でしたが、内科・眼科・歯科も手がけ、最先端の放射線治療やレントゲン設備を取り入れ、大繁盛しました。
 朝早くから往診し、10時からは外来患者の対応、午後からは再び往診し、午後5時からは実習生の指導にあたり、夕飯は9時になる毎日でした。

 中原医院で使われていた薬瓶がこちらです。

 そしてこちらは義父中原政熊の診断書。当時のお医者さんの雰囲気が伝わってきます。

 中也は小説もたくさん書いていました。私小説風に自分の家庭のこともいくつか書いています。中原医院の様子がよくわかるものもあります。当然、そこに父親も登場します。
 息子から見た父の姿と、この企画展での父自身の人生からみえる父の姿とを比較したら面白いと思います。この企画展の根幹となる部分です。

 旧制山口中学校を落第した中也が京都の学校に転校したあと、謙助は七卿碑建立の運動にますます熱を入れました。「湯田七卿遺跡保存会」の幹事発起人となり、医院の一部を事務所に提供し、全国に寄附をよびかけ、大正15年11月11日についに除幕式を迎えました。井上公園に高くそびえる石碑がそれです。それから一年と半年後に往診先で倒れ、二ヶ月後に亡くなりました。亡くなる直前に、不自由となった体で井上公園まで歩き、夕暮の七卿碑をいつまでも飽かずに眺めていたそうです。その胸中に流れたものはなんだったのでしょう。

 謙助の死亡とその葬儀については、地元の防長新聞の記事にもなりました。湯田から吉敷の墓地まで長い行列ができたほどの参列者がありました。当時の中也は長髪だったために母親から参列させてもらえませんでしたが、本人も、そのときは大学を黙って退学して仕送りだけもらっていた状況だけに、お偉いさんが居並ぶ中に交るのは気が引けたでしょう。

 詩人中也の父の姿。この父にしてこの子とおもうか、別個の人格とおもうか。あなたならどうおもいますか。
 企画展の会期は平成25年3月24日(日)までです。 料金は、一般310円(262円)、大学生210円(157円)、小・中・高校生150円(105円)。 ※70歳以上は無料、(  )内は20人以上団体料金

 また、同時に、第9回常設テーマ展示「『在りし日の歌』まで」が平成25年2月18日(月)まで開催されています。

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